雄略天皇と朱蒙~その2 [歴史]
即位宣言の歌である御歌の原文は『籠毛与、美籠母乳・・・・』 (一般には、こもよ、みこもち・・・と読まれる)。
『母乳』という漢字をみると、垂乳の母・・・みたいな枕言葉を連想します。しかし、これは枕言葉でありません。この意味不明の文章(前半部分)は古代朝鮮語でないと読み解くことはできません。
*今に伝わる万葉仮名は、雄略天皇の読んだ歌の口承を文字化したもので、おそらくもとの字は違っていたでしょう。万葉集の編纂者あたりが、その意味や歴史的背景を考えて、適切な漢字を使い書き換えたものと考えるのが妥当でしょう。とにかく高い学識のある人が、万葉がなを用いたということは疑いようがありません。でたらめに、発音あわせの漢字=文字を選んでいるわけではないのですね。
そして、この歌の真の意味を理解するには
太王四神記(テワンサシギ)と朱蒙(チュモン)
を見ていないと理解できないんですね。
1古代朝鮮の三民族(貊、濊、韓)
太古、朝鮮(チュシン)といわれた世界を治めるために、天上の神・桓因(ファイン)は息子の桓雄(ファヌン)を3000人の家来・人民ととも降下させます。そして、熊と虎を人間にしようとするのですが、虎は失敗し、熊は成功。この熊は美女となってやがて、桓雄(ファヌン)の妻となり息子・檀君(だんくん)を産みます。これが古朝鮮(コジョソン)の初代帝王・王倹(ワンゴム)です。
ドラマでは、この虎族は火の神(カジン=巫女キハ)が率い、桓雄(ファヌン)に反抗、一方、熊族の戦士セオ(=スジニ)は桓雄の妻となります。
(解説)いわゆる朝鮮人圏の民族は、古代三つに分かれていたそうです。 貊(コマ、狛、貌)族、濊(エ)族、韓(ハン)族。このチュシンの伝説は、先住民である貊族(熊トーテム)と濊族(虎トーテム)を外来の支配者層である韓族が取り込んでいく過程がもとになっているといわれます。日本の古事記でも、外来の天孫族がオオクニヌシら在来の民族に国譲りを強要する話がありますから、そっくりです。おそらく、その際に虎に代表される濊(エ)族が反抗した伝承がもとになっているのでしょう。
2朱蒙伝説
ドラマでは扶余(プヨ)の第三王子(実は継子)朱蒙が二人の兄と敵対、とうとう扶余を飛び出し南下、多勿(タムル)軍を結成、後に卒本を統一、高句麗を建国します。妻と子供を人質にされたまま、飛び出した朱蒙ですが、いつしか商団のお嬢様ソソノと結ばれ召西奴(ソソノ)は高句麗の皇后となります。後に、召西奴(ソソノ)は贖罪の意識から百済(ペクチェ)を建国したという。(なお、私はまだ60話くらいまでしか見ていないので、詳しくは知りません。)
*朱蒙の母・柳花(ユファ)は河伯(ハベク)族の君長の娘。 父はヘモス将軍。
*ソソノの父は、卒本(ソルボン)国・桂婁(ケル)の君長、ヨンタバルであり彼は商団を率いている商売人。
さて、この日本とも縁の深い百済国は、その後二国に分裂。これが沸流(ピリュ)百済と温祚(オンジョ)百済。前者の沸流百済は熊津(ゆうしん)に都し、弥鄒忽(ミチュホル)ともいいます。また、後者の温祚百済は広州(ソウル近郊)に都して慰礼忽(ウィレホル)ともいいます。朱蒙の再放送を最近やっているのですが、召西奴(ソソノ)が前の夫との間で産んだ二人の子供の名前が、沸流(ピリュ)と温祚(オンジョ)なんですね。
やがて、さらに南進し、海運国であった沸流系の人々は日本列島にも国をつくります。これが弥鄒忽(ミチュホル)=瑞穂(ミズホ)の国=Japanの古名となります。語尾の子音のル(パッチムというのでしょうか?)は日本ではとれてしまいます。なお、兄の沸流(ピリュ)が作ったという国は土地が肥えておらず、まもなく滅んだそうです。
*み吉野の・・・、と和歌ではなぜか吉野にはみがつきます。これは水の吉野のことだという本が以前ありましたが、正確には水ではなくて、ミチュホルのみだったんですね。
3籠毛与・・・の意味
籠・・・以下の文章は平安時代の学者も解読不能だった(あるいは惚けたのか?)ため、なんと籠という字から、籠をもったお嬢さん・・・などというふざけた解釈を作り上げてしまいました。万葉仮名ですから、字よりも発音が大切なんですね。(もちろん、多くの漢字からひとつを選んで当てるのですから、通常はその漢字にも意味をこめます。しかし、この場合、ただの籠と解釈しても何の深い意味も持ちえません)
古代朝鮮では吏読(イド)と言って、日本の万葉仮名の元になった朝鮮式の漢字音訓読方法があります。実際には万葉時代とは百済や新羅の人たちが中心であったわけで、これが『日本人が発明した?』ひらがなやカタカナにつながっていきます。
*朝鮮語は日本語にくらべて子音も多く、母音の数も多い。また発音変化の規則も多いので、吏読は非常に複雑で規則が多いそうです。
本当の意味(即位宣言と民衆の団結)
貊(こま)族よ、貊が占領した土地および民よ(=倭国をさす)
我こそが大王である。
というのが本当の意味だそうです。これならよほどの右翼人間でないかぎり納得ですね。
籠毛(コモ)=貊族は狭義では高句麗人を指しますが、朝鮮人全体をも指します。この場合は百済系の人々をさしています。
美籠母乳=ボックト=復旧土で百済の占領地の意味です。多勿都(タモルトゥ)ともいいます。そういえば、朱蒙の勢力は最初、多勿(タムル)軍とか言っていました。ゲリラ的に土地を占領したからでしょうか?
朝鮮半島から南下しておそらく北九州一帯を征服したという感じでしょうか。イメージ的には倭の五王である倭王・武であっても不思議ないですね。ただ、倭王・武は日本側から海を渡って朝鮮半島の国々を征服したと自ら言っているので、別人の可能性が高い。問題は雄略天皇が生きた本当の年代が特定できないことですね。古事記などの干支が実際に西暦何年にあたるのかは確証がないからです。
「太王四神記」や「朱蒙」を妻は観ていましたが、私はほとんど観てませんでした。しかしこの記事を読んで興味を持ちましたね。
by たいちさん (2009-01-24 14:52)
たいちさん、ぜひ風の国から見ていきましょう!
私も、またこれで朝鮮いや日本の歴史!の知識が増えそうで楽しみです。
by 降龍十八掌 (2009-01-24 17:32)
おお、素晴らしい~~!!
難しい漢字が並んでて、わたしにはチンプンカンプンではありますが、
神鵰さん、よくこれだけ調べましたね!
もう、この記事を書くだけでも大変だったろうと・・・
あっ、もう1度ジックリと読ませていただきますデス!(^^)!
by collet (2009-01-24 17:58)
colletさん、誠にありがとうございます。
何回もお読みください!(笑)
じっくり読んでいただけると、書いた甲斐があります。
by 降龍十八掌 (2009-01-24 21:47)
調べ物をしていてこちらに来ました。
濊族とは後の扶余族ですがそうなるとツングース系ですね?
貊族はどういう系統でしょうか?
ツングースが先住民で韓族が流入民族だったとは興味深いですね。
韓族はもともとどこにいた民族なんでしょうか?
by 通りすがり (2010-07-17 08:21)
とおりすがりさん、調べもの大変ですね。
民族系統いついては調べたことがないので、まったく分りません。
春秋戦国時代の昔から、中原からの民族流入があったと想像しますが。
因みに、最近、邪馬壱(ヤマイ)は亀のことで、倭国の源流は亀トーテムであったことを知りました。浦島太郎もそのへんと関係あるのかもしれません。
by 降龍十八掌 (2010-07-17 18:37)