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伝統~桑原武夫 [読書]

戦後間もないころ『第二芸術』で物議をかもした桑原武夫の本と読んだ。桑原武夫というと、なんとなく国語の教科書でみたような記憶がある、有名作家ぽい名前だなという印象があるのだが、実際に読んでみると、まったくのはじめてであった。

さて、くだんの『第二芸術』とはいかなる趣旨の本なのか?興味が湧く人も多いと思うが、それは次の機会に譲るとして、今回は文庫本に収録されていた『伝統』という本も紹介したい。

下手な笑い話のようだが、実はこの

伝統

という言葉自体が明治にできた造語で、まったく伝統のないものだという

さて、伝統と慣習の違いはなにかというと、伝統の方には何か良いものという価値判断を含むものといえそうだ。例えば、『わが校の伝統は・・・』『わが国の伝統は・・・』というように。

著者は伝統とは、革新する社会に対しての保守派の反動であると言う。少なくともヨーロッパのトラディッションとはそういう歴史があるという。だが、西洋でもこのトラディッションというやつも、せいぜいルネサンスまでも遡らないしろもので、やはり伝統といえる代物ではないらしい。

肯定的な価値判断と含む一方、伝統とは必ずしも史実でなくともいい、という面がある。例えば、最近取り上げているダビンチコードが批判する旧カトリックの伝統などというものは、イエスキリストとは全く関係のない代物であることは歴史的には自明のことらしいのだが、実際のキリスト教徒にはどこ吹く風である。同じく、武士道などというのもある時代の非常に限定された地域の理想なのだが、いかにもそんな伝統が日本にあったかのように一般的には信じられている。

伝統のあいまいさ

著者は試みにある農夫に伝統とは何かと問う。すると『いやあ、具体的には答えられんが、とにかく守るべきものであることは知っていまさぁ』なんて返事が返ってきたという。このように東西を問わず、伝統とは弱く、あいまいなものである。

ただ、恐るべしは中国。この国ほど伝統にこだわる国はないようだ。わが国では猫も杓子もピアノ教室、洋画の展覧会が満員なんてことは日常茶飯事なのだが、中国ではまずこんなことはないだろう。

日本では明治維新でほとんどの伝統?を捨てた。つまる、中国のようにしっかりとした伝統(?)が無かった。今では伝統を口にする右翼のW先生も、I都知事さんもしかりと、洋髪で洋靴を履き、背広を着ている。決して、ちょんまげに羽織袴ではない。(もしもそんな格好なら馬鹿だと思われる。え?顔をみてれば解る?)

伝統の貧弱な日本では伝統というよりは、伝承というものぐらいしかない。と著者はいう。強いて言えば、天皇制ぐらいか?お茶やお花の家元制度も天皇制が発祥かもしれない。

となると、今話題のY神社なんて、伝統のかけらも無いということでしょうか?

 


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コメント 4

Cecilia

そういう落ちになるとは思いませんでした。(笑)
「清く明く直い」心が日本人には古来から備わっていた・・・と例の「日本的」キリスト教の教派で言われました。(そこが「つくる会」に深く関わっていることはかなり有名らしいです。)そこは「武士道」の話も「天皇」の話も大好きです。

ちなみに私は「武士道」の著者の先生が初代学長だった大学の出身です。
by Cecilia (2006-08-01 01:55) 

Kimball

降龍十八掌さま、
(ちゃちゃ、ですが:-)
でも、フー・チンタオさんはじめ、独裁政権のみなさまも「背広」ですね? \(^o^)/
「一人っ子」政策のもとでの、かの国の「子育て」はもっと西洋化されて
いませんか? \(^o^)/
(TVでしかみたことないので実情はわかりませんが:-)

I知事はともかく、W先生は、「伝統」というより、個人的な「思い出」を
素直に話しているだけだとおもいます。
小生は「ぶれない」人として、W先生は本物だとおもうんですが。\(^o^)/
by Kimball (2006-08-01 06:59) 

降龍十八章

Ceciliaさん、毎度ありがとうございます。夜遅くまで起きていらっしゃいますね。『武士道』の著者、完全に失念している降龍です。うーん、だれだったかなぁ。つくる会(創る会?偽る会?造る会?)は最近、話題にもならないようですね。(自分が本屋に行っていないだけ?)
最後のオチは、本旨ではありません。本当はピアノやバイオリンやクラリネットばかりやっていないで、という音楽家族への批判をしようとして書き始めたものだったんです。(サンラプさんが見たら怒るでしょうね?)
kim兄、この本自体が戦後まもないころ書かれた本(『伝統』はその10年後ぐらい)なので、今の中国人民とは多少ことなるかもしれません。
確かにW先生は本物の右翼学者ですね。(私の目から見ると)
by 降龍十八章 (2006-08-01 11:00) 

Kimball

降龍十八掌さま、
今朝、こんな記事に出会いました!!
これは注目の本では? \(^o^)/
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50584731.html
------
新渡戸稲造(にとべ いなぞう) 先生.... \(^o^)/

でも、一度、読み出したことがあったのですが、小生の場合は、
なんともうしますか、「そ、そうかなー??」な記述が続き、
ちょっと白けてやめてしまいました。\(^o^)/

「武士道」なんて「たかみ」\(^o^)/から主張せんでも、
昭和30年代生まれのわれわれからすれば、当時(昭和30年代)
大人だった人たちの背中に残っていたものをみれば
よかったのでは?なんて・・・・ \(^o^)/
-------
英語原文で読んだほうがよいかもしれません。
(って、(自分が)読めないくせに、ですが)
by Kimball (2006-08-02 07:33) 

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