本当の『犬神家の一族』

佐清（すけきよ）はピストルを持っていた。母（松子）をかばうために、遺書を書いて自殺するつもりだった。『戦争で一度は失った命』（映画でのせりふ）ということで、死ぬ覚悟はできたということだろう。映画と違って、佐清は一旦、東京へ戻っており、そこで散髪なぞをした後に、新聞記事（偽佐清殺し）を読んで再び舞い戻ってきたのだった。

そして、珠世をわざと襲い、雪の積もった山へ逃げ、そこで警官隊との銃撃戦を演じる。東北育ちの金田一も袴を尻捲くりしてのスキーの腕前を披露し、ダイナミックなクライマックスを演じる。

いったい、こんなすばらしいシーンを映画ではなぜカットしたのか不思議・・・というか理解できません。このような見せ場を放棄してまで、設定を『夏』にしたのはなぜなのか？原作の最後は

那須湖畔に雪も凍るような、寒い、底冷えのする黄昏のことである。・・・で締めくくられているのだ。

原作の表現 

・原作では、佐清は珠世を『珠世ちゃん』、静馬を『静馬くん』と呼んでいる。それと、実際には犬神家には奉公人の女中さんが何人もいる・・・んだなぁ～。（映画では、女中さん連中がまったく登場せず）

・三姉妹の母は全て、菊乃と佐兵衛ができたころには、とうに死んでいた。・・・だから、映画に登場した松子の母（小遣いをせびる）も存在しない。

・青沼菊乃（＝宮川香琴）は、野々村晴世（男色であった野々村大弐神主の処女妻、犬神佐兵衛の愛人）の従姉妹であった。犬神佐兵衛は、恋人である晴世を母のように慕っていたので、血縁の菊乃をより愛していたのだった。

・犬神佐兵衛は、男色（衆道）などの過去はあったが、決して、映画で語られているような残酷・冷徹な性格ではなく、むしろ人徳者であった。そんな彼が、三姉妹とその母たちを冷遇した理由は別にある。（研究するとおもしろい）

・映画のように、死んだ佐兵衛が娘たちを互いに憎みあうような策略をしたわけではない。単に、珠世を殺させないように、計算して静馬を持ち出したのであった。

次系列（昭和２４年？）

・２月１８日　犬神佐兵衛死ぬ　　佐清・静馬２９歳、佐武２７歳、佐智２７歳、珠世２６歳

・１０月１８日　金田一耕助　那須ホテルに泊る　依頼人、若林殺害される

・１０月１９日　古館弁護士と会う

・１１月１日　（偽佐清、前の晩に帰郷）、遺言状が公開。　

・珠世、偽佐清に懐中時計の修理を依頼。指紋をとる。 

・１１月１２日　本物の佐清、博多に復員。戦争での失態から山田三平と偽名を名乗る。 

・１１月１５日　金田一、古館、佐武、佐智、大山神社で奉納手形の巻物をもらう。夜、松子夫人・偽佐清、手形照合を拒む。

　午後８時、顔を隠した復員服姿の男が柏屋に来る。１０時にでかけ、１２時に戻る。夜１１時ごろ珠世、佐武に時計を渡す。　　　　

・１１月１６日　朝５時、謎の男、柏屋を発つ。早朝、佐武の首が菊人形となって発見される。本物の佐清（入れ替わって）、手形を押す。

　　琴の師匠、宮川香琴（実は、青沼菊乃）、松子に稽古をつける。

　　夜１０時ごろ、佐武の半通夜がお開きになる。珠世、部屋に戻ると兵隊服姿の男に出くわす。猿蔵、男を取り逃がす。偽佐清、殴られて気絶しているところを発見される。

・１１月２５日　日光浴にボートで出かけた珠世が佐智（すけとも）に略奪される。那須湖対岸の空家（元の犬神家本宅、豊畑村）にて強姦される寸前に、謎の男に救われる。夕方４時、猿蔵に電話がくる。猿蔵、椅子に縛られた佐智にビンタを見舞ったあと、珠世を救って帰宅。　

・１１月２６日　朝１０時、珠世目を覚ます。行方不明の佐智の絞殺死体、空家で発見される。

　　琴の稽古中に、刑事の話を聞いて動揺した松子の琴の弦が切れる。刑事に指が切れたと指摘されるが、香琴（菊乃）は首をかしげる。（菊・琴の話を聞いて）動揺する菊乃を偽佐清が支える。

　２時間後、三姉妹を代表して、広間で松子が、斧・琴・菊にまつわる菊乃と静馬の話を告白する。

　大山神主、珠世が佐兵衛の孫であることを暴露。三姉妹、偽佐清ら驚愕する。

・１２月１３日　湖で偽佐清（静馬）の逆立ち死体が発見される。竹子が娘、小夜子が佐智の落としたボタンを持っているのを発見す。死因は絞殺。

　　午後９時５分着の汽車で、本物の佐清、那須へ舞い戻るところを目撃さる。

　　午後９時半、琴の師匠、宮川香琴、署長・金田一らに青沼菊乃であることを告白す。

　　夜１２時ごろ、本物の佐清、珠世を襲う。

・１２月１４日　逃走した佐清を雪ケ峰での銃撃戦捕り物のすえ逮捕。

・１２月１５日　犬神家にて、謎解きを披露。

コメント 1

このように時系列的に述べられると、映像が目に浮かんできますね。
by たいちさん (2010-08-23 13:26)